全面マスク式潜水
全面マスク式潜水
- 全面マスク式は、送気式潜水方式の一つで、顔全体を覆うマスクに応需式潜水器(デマンド式レギュレーター)が取り付けられた構造となっています。
- 良い点は、ヘルメット式に比べて少ない送気量で潜水することができ、スクーバ式の高い機動性、スクーバ式よりも長い潜水時間、水中電話を通じて船上と常に連絡を取り合えることなどがあります。
- フーカー式と呼ばれることがありますが、正しい呼び方ではありません。
設備・器具
空気圧縮機(コンプレッサー)
- 基本的にヘルメット式と同様で、固定式と移動式があり、固定式は潜水作業船に設置される場合が多く、陸上に近い水域などでは、100kg程度と軽量コンパクトな移動式の使用が使用されます。
- 全面マスク式又はフーカー式のコンプレッサーは、高圧則第28条第2項において、その水深の圧力下において、毎分40リットル以上を送気できるものを使用し、かつ、送気圧をその水深の圧力に0.7MPaを加えた値以上としなければならないと規定されてます。
空気槽・緊急ボンベ
- コンプレッサーから送られてくる圧縮空気は、断続的な脈流となって送られるので、この圧縮空気を一度、空気槽に貯めて流れを整えてから送気します。
- 空気槽には調節用空気槽(調節タンク)と予備空気槽(予備タンク)があり、調節用空気槽は、空気の流れを整えるために、予備空気槽は、故障時に備えて空気を蓄えておくために使用されます。
- 空気槽は、高圧則第8条第1項で、調節用空気槽(調節タンク)と予備空気槽(予備タンク)とともに潜水者ひとりに付き、一式が必要で、ひとつの空気槽から二人の潜水者への送気は行ってはなりません。
- 予備空気槽の容量は、高圧則第8条第2項で、常時、最高の潜水深度における圧力の1.5倍以上であることと定められ、その内容積は、平成26年厚生労働省告示第457号第1条で次の計算式による値以上にしなければならいと規定されています。
40(0.03D+0.4)
V= -----------
P (ヘルメット式は40が60となります。)
- V:予備空気槽の内容積(単位はリットル)
- D:最大の潜水深度(単位はメートル)
- P:空気槽内の圧力(単位はメガパスカル)
- 全面マスク式潜水の場合には、潜水者が規定の容量を満たす緊急用ボンベを携行すれば、送気系統に予備空気槽を省くことができます。
空気清浄装置
- 空気槽と送気ホースの間に取り付けられ、圧縮空気から臭気や水分・油分を取除くもので、高圧則第9条で規定され、清浄材としてはフェルト、活性炭やシリカゲルが使用されています。
圧力計
- 空気槽に取り付け、所定の圧力以上で送気されていることを確認するための計器で、設置が高圧則第9条で義務付けられています。
- ヘルメット式では、流量計であることに注意。
送気ホース
- コンプレッサー → 空気槽 → 空気清浄装置 → 送気ホース → 潜水者のレギュレーター
- 空気圧縮機と空気槽は、金属管(銅又はフレキシブルパイプ)が使用され、空気槽と潜水者までは、強靭で柔軟なゴム製送気ホースが使用されます。
- 内径は7.9mm(呼び径8mm)です。
- 比重によって、沈用、半浮用、浮用の3種類があります。
全面マスク式潜水器
- 多数の種類がありますが、通常は専用の潜水呼吸器を装備したもの、全面マスクにスクーバ用のセカンドステージレギュレーターを取り付ける簡易なものが使用されています。
- 使用時は、全面マスクを顔面に装着し、ストラップ(マスクと頭部を固定するゴム製バンド)で頭部に固定します。
- 全面マスク内には、口と鼻を覆う口鼻マスクがつけられており、これを介して給気を受けます。
- 水中電話のマイクロホンも口鼻マスク部に取り付けられて、イヤホンは、骨伝導式のものが多く、ストラップで耳の後ろに固定されます。
- 曇り止め機能や耳抜き用の鼻押さえ機能などもついてます。
緊急ボンベ(ベイルアウト)
- 送気不良のトラブルに備え、緊急ボンベ(ベイルアウトボンベとも呼ばれます。)を携行します。
- スクーバ式のボンベを利用することができ、通常は4リットル程度の小型のボンベにレギュレーターが取り付けられており、ハーネスを用いて背中に固定します。
潜水服
- ウエットスーツ又はドライスーツ(水が入らない密封構造)が使用され、スポンジ状で内部に多くの気泡を含んだネオプレンゴムを素材としたものが使われます。
- 潜水服については、スクーバ式潜水を参照してください。
ブーツ
- ウエットスーツの場合は、足を保護するためネオプレンゴムでできたブーツを使用します。ドライスーツは一体型となっています。
フィン(足ヒレ)
- 全面マスク潜水では、送気ホースがあることから、移動範囲が狭いので、通常は使用しないが、必要な場合は使用します。
- フィンについては、スクーバ式潜水を参照してください。
ウェイト
- 腰部にベルトで取り付けるものが多いですが、着用するチョッキ(ベスト)型のタイプもあります。
- ドライスーツの場合は、腰部だけでなく、足首に取り付ける「アンクル型」を併用することもあります。
- いづれにしても、緊急時にワンタッチで取り外しができるものを選択します。
- スクーバ式潜水も参照してください。
その他の器具
- さがり綱(潜降索)、水深計、水中時計、水中ナイフは、スクーバ式潜水を参照してください。
水中電話(咽喉式)
- 業務の効率を向上させるため、安全性にも有用で、マイクロフォンのスイッチ操作によって通話します。
- 通話がない場合でも潜水者の呼吸音を船上等で聴取できるので、潜水者の状態も把握できます。
- 潜水者の音声は、口鼻部に取り付けられたマイクによって話すことができるが、狭い空間のため、明瞭度は低くなります。
- イヤホンは、骨伝導式のほか、小型のスピーカーなどもあります。
信号策
- 水中電話がない時代に連絡用として、現在でも水中電話が使用できないような場合などに使用されます。
- 高圧則第37条では、携行が義務付けられていますが、水中電話で連絡員と交信できる場合は携行しなくてもよいと規定されています。
- 水中電話機の故障に備え、水中電話があっても携行することが望ましく、さがり綱(潜降索)と同様に1~2cmの丈夫なものが使用されます。
設備・器具の取り扱い
コンプレッサー(空気圧縮機)
- 移動式コンプレッサーを使用する場合は、空気取り入れ口からエンジンなどの排気ガスを吸い込まないように注意し、設置場所や風向きなどに注意する必要があります。
- 固定式のコンプレッサーは、通常作業船の機関室内に設置されることが多いですが、機関室は排気ガスや油類の飛沫などで汚れているので、空気取り入れ口は機関室の外に設置し、空気取り入れ口にはストレーナー(ろ過器)を設けます。
- コンプレッサーの圧縮効率は、圧力の上昇に伴い低下し、ゲージ圧0.1MPa上昇すると約5%程度づつ効率が低下し、0.8MPaでは、圧縮効率は50%まで低下してしまうので注意が必要です。
空気槽
- 潜水前に予備空気槽の圧力がその日の最高の潜水深度の1.5倍以上に達し、空気槽内に十分な空気が蓄えられたことを確認します。
- 空気槽内に蓄えられる空気量は、最大潜水深度で、数分から十数分なので、緊急事態が乗じた場合は、直ちに緊急ボンベを使用し、業務を中止して浮上を始めるなければなりません。
全面マスク式潜水
- 潜水前に送気系統に接続し、顔面に押し当てて呼吸を行い、給排気が確実に行えるか確認します。
- レギュレーター部分を耳に近づけ、空気漏れの音がしていないか確認します。
- 面ガラスは、水温とマスク内の温度差によって、非常に曇りやすいので必ず曇り止め(唾液か市販品)の処置をします。
- 全面マスク式は、死腔(しこう「高気圧障害の人の体の循環を参照」)が大きいので、水中での呼吸は、深く大きく行うことを心がけます。
緊急ボンベ(ベイルアウト)
- スクーバダイビングの設備・器具の取り扱い「ボンベ」を参照
設備・器具の点検整備
定期点検
コンプレッサー(空気圧縮機)
- 清浄で適量の空気が不安なく送気されるように、次の点に注意して点検し、最低でも1週間に1回以上の点検を行うことが必要です(高圧則第37条)。
- 駆動ベルト、クラッチ、オイル、空気圧、空気取り入れ口、送気ホースなど。
空気清浄装置
- 1か月に1回以上、内部の汚れ具合やフィルターの状態など(高圧則第37条)
圧力計
- 1か月に1回以上、本体のキズ、破損、作動状況、精度など、
全面マスク式潜水器
- 1年に1回以上、専門家に点検整備を依頼します。
潜水服
- ドライスーツの給
気・排気バルブは1年に1回以上、専門業者に依頼します。
緊急ボンベ
- 高圧ガス保安法(容器保安規則第24条)に基づき、5年ごとに1回、また、アルミボンベは1年に1回ごとの容器再検査のほか、高圧則では6か月に1回以上の点検が義務付けられています。
- ボンベは、1年に1回以上バルブをはずして、内部を点検します。
水深計、水中時計
- 高圧則第34条で、水深計は1ヶ月に1回以上、水中時計は3ヶ月に1回以上の点検が義務付けられています。
始業・終業点検
空気槽
- 始業前に、空気槽内の汚物を圧縮空気とともにドレーンコックから排出します。
送気ホース
- 始業時に、継ぎ手部分の緩みを確認し、ホースの先端を閉じて最大使用圧力以上の圧力をかけて、耐圧性と空気漏れを点検します。
潜水服、ナイフ、さがり綱、信号索、緊急ボンベ
- スクーバ式潜水を参照
水中電話
- 作動状況、感度、バッテリーの容量の確認などを行います。
全面マスク式潜水器
- 始業前に、吸気・排気が完全に行えるか確認し、終業時には水洗いを行い十分に乾燥し、直射日光を避けて衝撃を与えないように保管します。
記録の保存
- 点検結果はその都度記録し、3年間保存します(高圧則第35条)。
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