潜水者の健康管理
潜水者の健康管理
- 事業者は、潜水者に定期的に健康診断を受けさせることが義務付けられており、これによって、潜水の業務に適応できない者、体力面、健康面から潜水に適さない者や、潜水によって障害が起きるおそれのある人を発見し、就業させないことが必要です。
- 潜水が悪影響をおよぼす疾病にかかっている者はもちろん、治癒したと思われる場合でも医師の判断のもとに就業の可否を決定する必要があります。
健康診断
- 一般の健康診断のほかに、高圧則では高気圧障害に関連する項目について、雇い入れ時、配置替えの際及び6か月以内ごとに1回、定期的に「特殊健康診断」を行うことを定めています。
- 関節部のエックス線直接撮影は、骨壊死のチェックのためで、股関節、肩関節、膝関節などが対象となります。
病者の就業禁止
- 減圧症や他の高気圧障害、呼吸器疾患、循環器または血液疾患、精神神経系疾患、耳の疾患、運動器疾患、アレルギー性、内分泌系、代謝または栄養的疾患などの疾病者は就業できません。
- 気管支喘息に持っている人は、乾燥空気の吸入や運動により喘息発作が出やすいので、潜水は不適格となります。
- 重症の減圧症にかかったことのある人、呼吸器、循環器系に異常のある人、神経系に異常のある人などは潜水しないほうがよい。
- 減圧症にかかった場合には、再圧療法で全治したからといって、すぐに潜水してはいけません。
- それは、まだ体内に余分な窒素が残っていて、組織の何らかの損傷もあり、減圧症を再発するからでです。
- 個人の健康管理風邪を引き鼻や咽喉に炎症を起こせば「耳抜き」がしにくくなります。
- このようなときに潜水すれば耳の傷害を起こしかねないし、、潜水者は常に自分の健康状態を把握し無理をしないことが大切です。
一時的に潜水できない疾患
- 急性気管支炎、肺炎などの呼吸器感染症などは、空気塞栓症のリスクを高めます。
- 二日酔いは、末梢血管が開いて低体温症いなる可能性があり、また、脱水症状から減圧症のリスクも高めます。
- 潜水士として適正を欠く疾患としては、「肺気腫」、「気腫性肺のう胞」などで、動脈ガス塞栓症にり患しやすくなります。
潜水の業務に必要な救急処置
- 潜水者の救助については、高圧室内作業主任者、救急再圧員資格者の確保、AED等の器材の準備、不明になった場合の捜索要領、処置手順、医師との連絡方法などを確立しておくべきです。
潜水事故者の発見時の対応
- 事故者に意識がある場合は、事故者がパニックになっているかもしれないので、救助者に危害を加えたり、潜水器を奪ったりするので、むやみに近づかず、観察して短時間で状況を把握するようします。
- 事故者に意識がない場合は、潜水呼吸ガスを供給して意識の回復を図りますが、回復しない場合は、速やかに水面へ引き上げ、浮上後、直ちに再圧治療等、応急処置、医師の診察を受けさせます。
一次救命処置
- 心肺蘇生とは、胸骨圧迫(心臓マッサージ)および人工呼吸を行うことで、「一次救命処置」とは、心肺蘇生にAED(自動対外式除細動器)による除細動、気道異物除去の3つをあわせたものをいいます。
応急手当(ファーストエイド)
- 心配停止以外の一般的な傷病に対して行う最小限度の手当てを「応急手当(ファーストエイド)」といい、止血、頸椎固定、傷、やけどの手当、骨折や捻挫の手当てなどです。
一般的な処置方法
- 以下については、新テキストでは図で説明されており、文書は省略されておりますが、過去の試験にも頻繁に出題されていることから、そのまま掲載しておきます。
発見時の対応
- 傷病者の反応の有無の確認
- 肩を軽くたたく:大声で呼びかける、刺激を与えて反応を確かめる。
- 反応なし: 応援を要請する。119番通報、AEDの手配、救急通信指令員の指示に従う
- 肩を軽くたたく:大声で呼びかける、刺激を与えて反応を確かめる。
呼吸の有無の確認
- 呼吸の確認には気道確保を行う必要はなく、傷病者の口元に顔を近づけて
- 胸が呼吸につれて上下しているか
- 傷病者の呼吸音は聞こえるか
- 傷病者の息をほほで感じられるか
- 「見て、聞いて、感じて」判断します。
- 呼吸の確認は迅速に10秒以内で行い、わからない、迷う、しゃくりあげるような呼吸(死戦期呼吸)の場合は、呼吸なしとみなし、直ちに胸骨圧迫に入ります。
- 呼吸の確認が見られる場合は、様子をみながら救急隊の到着を待ちます。
胸骨圧迫
- 胸骨圧迫は、胸骨の下半分(胸の真ん中を目安)に片方の手のひらの基部(手掌基部)をあて、その上にもう片方の手を重ねて組みます。
- 両肘を伸ばしたまま体全体の体重を手掌基部にかけます。
- 胸骨が少なくとも5cm沈むように強く早く、1分間に少なくとも100回から120回のテンポで圧迫します。
- 圧迫が効果的なものとなるように、平らな堅い床面を背中にして行います。
- 胸骨圧迫の中断時間は最低限として、絶え間なく実施します。
人工呼吸ができる場合
- 人工呼吸の技術と意思があれば、胸骨圧迫を30回、人工呼吸を2回の組み合わせで行います。
- 人工呼吸ができないか、ためらわれる場合は、胸骨圧迫のみ行います。
- 気道確保(自発呼吸している場合又は人工呼吸を行う場合 )
- 頭部後屈・あご先挙状法で気道を確保します。
人工呼吸
- 人工呼吸は現在、感染症や吹き込む技術の習得の関係などから、一番最初に行う一時救命措置にはなっておりません。
- 以下、念のため方法は記載しておきます。
- 口対口人工呼吸法を2回実施します。
- 気道を確保したままの状態で行います。
- 救助者が口を大きく開けて、傷病者の唇の周りを覆うようにかぶせます。
- 傷病者の鼻をつまんで、息が漏れ出さないようにします。
- 1秒かけて胸の上がりが見える程度の量の息を吹き込みます。
- 2回行った後は、直ちに胸骨圧迫を開始します。
- 吹き込んだ空気が胃に流入し、内容物の逆流による気道閉塞に注意します。
- 感染のリスクを考慮して感染防護具(一方向弁付き吹き込み用具)を使用することが望まれます。
胸骨圧迫30回と人工呼吸2回の組み合わせ
- 胸骨圧迫を30回、次に人工呼吸を2回実施します。
- これを1サイクルとして、救急隊が到着するまで、あるいはAEDが装着されるまで繰り返します。
AEDの使用
- 心肺停止に対する緊急の治療法として行われる電気的除細動(電気ショック)を、一般市民でも簡便かつ安全に実施できるように開発・実用化されたもので、現在、いろいろな公共施設、店舗などに装備され、救命措置として広く普及しています。
- 潜水作業においても何らかの事故が発生した場合には、その使用が必要となる場合がありますが、潜水においては、再圧治療との関係が深く、再圧治療とAEDの使用のどちらを先に優先するかなどのタイミングが重要になることがあります。
潜水者へのAEDの使用
- 潜水者が呼びかけに反応がなく、呼吸もない心肺停止の場合には、直ちに心肺蘇生とAEDによる除細動が優先となります。
- 心肺再開前の再圧治療は避けなければならず、また、再圧治療中は、電気的な安全面の関係からAEDを使用してはいけません。
- 心肺停止後10分以内であれば、AEDなどの器具や医師がいる場合は、加圧しないで心拍の再開するまで除細動を実施します。
- 再圧に関わらず、10分以内に除細動が行わなければ、救命は難しくなります。
- AEDや医師などがいなく直ちに除細動が実施できない場合は、再圧室内で心肺蘇生を実施しながら医師に連絡し、20分以内に除細動ができるようであれば、大気圧に戻したあとに除細動を行い、心拍が戻らない場合は、心肺蘇生を続けます。
- そして、除細動を実施しても心拍が戻らない場合は、再圧治療を実施しないようにします。
- 心肺蘇生は、息を吹き返すまで、救助者が実施できなくなるまで、あるいは、医師が死亡を宣告するまで継続しなければなりません。
AEDの使用方法及び気道異物除去
- AEDの使用方法及び気道異物除去については、新テキストでは省略されていますが、過去の試験問題にも多く出題されていますので、下部に掲載しておきます
AEDの使用方法
- AEDの装着により、自動的に心電図を解析し、除細動の必要の有無を判別し、除細動が必要な場合には、電気ショックを音声メッセージで指示されます。
- AEDを傷病者の頭の付近に持っていきます。
- 電源を入れ、傷病者の胸をはだけて、電極パッドを胸の右上と胸の左下の2箇所に装着します。
- 肌がぬれている場合は、水分をよくふき取ります。
- 自動的に心電図の解析が始まり、結果がでるまでは、傷病者の身体に触れてはいけません。
- 解析終了後、ショックが必要な場合に音声メッセージが流れるので、メッセージに従って行います。
- ショックが不要のメッセージが流れた場合は、胸骨圧迫を行い、心肺蘇生を行います。
- 一度貼り付けた電極パッドは、そのままはがさず、電源も入れたまま、再度の心肺停止後にすぐに対応ができるよう備えます。
気道異物の除去方法
- 気道に異物が詰まると死に至ることもあるので取り除きます。
- 腹部突き上げ法(妊婦および高度の肥満者、乳児には行わない)と背部叩打による異物除去のどちらかを状況により試みます。
- 異物が取れるか、反応がなくなるまでどちらかの方法を数度ずつ繰り返し実施します。
- 腹部突き上げ法は、傷病者の後ろからウエスト付近に両手を回し、へその位置を確認して手を組んで、すばやく手前上方に向かって突き上げます。
- 背部叩打法は、傷病者の後ろから左右の肩甲骨の中間を、手掌基部で強く何度も連続して叩きます(妊婦および高度の肥満者、乳児にはこの方法のみを用います。)。
- 異物が見えないのに指で探ったり、異物を探すために心肺蘇生を中断してはいけません。
緊急時の浮上方法
- 潜水業務に従事しているとき、何らかの事故で送気などが途絶えてしまったり、また、天候の急変などにより、緊急浮上により危険回避を行わなければならないことがあります。
- 高圧則第32条では、「浮上の特例」として、このような場合には、規定の浮上停止時間を省略若しくは短縮することができると規定しています。
- このような場合の処置として、直ちに再圧室に入れるか、潜水者をその日の最高の水深まで再び潜水させる(ふかし潜水)をしなければなりません。
- 緊急浮上後の再加圧や再潜水(ふかし潜水)も医師の指示によって行わなければならず、潜水者の身体にも大きく影響を与えます。
- ふかし潜水は、認められてはおりますが、安易に実施してはなりません。
- ですから、緊急浮上に陥ることのないように常に装備の点検、気象、海象の変化に注意しておかなければなりません。
- なお、緊急浮上した場合の処置に関しては、アメリカ海軍の対処法が用いられることがありますが、一人用の可搬型の再圧室(第一種装置)を多く用いている日本では、そのまま単純に当てはめることはできません。
- 緊急時の浮上には、二つの種類がありますが、それについては、「潜降および浮上」のページの「急速な浮上」を参照してください。
水中での減圧症の発症時の処置
- 減圧中に水中で減圧症が発症することがありますが、そのほとんどは関節痛で、水面到着前の浅い水深で発症することがあります、より重い症状として知覚障害、聴力低下や筋力低下などを発症することがあります。
再圧治療
- 再圧治療には、副室を伴い多人数用で酸素吸入ができる再圧室(第二種装置)と可搬型で酸素吸入の装備がない一人用の再圧室(第一種装置)があります。
- 一人用の第一種再圧室は、「労働安全衛生法」の「再圧室構造規格第1条」でその使用が認められているため、潜水現場で多く利用されているのが実情であり、また、日本では、第二種再圧室を保有する施設がまだ、少なく、また、大都市など、その場所に偏りがあるため、搬送にも時間がかかることがあります。
- 再圧治療は、発症から2時間以内に行われた場合、症状の改善は見込まれますが、発症後12時間を越した場合には、後遺症が増加することがあります。
- 再圧治療時間も2時間から5時間と長いので、第二種再圧室を使用することが望ましいのですが、前記記載のとおり、保有施設に偏りがあるので、平素から医師と潜水計画の段階から緊急浮上後の処置について検討、整備しておかなければなりません。
再圧の概要
- 減圧症や空気塞栓症は、不活性ガスや空気の気泡によって、引き起こされることから、気泡消失を目的とした一連の加圧及び減圧を「再圧」といいます。
- 再圧治療表は、米海軍によって開発されたものが治療効果に優れ、頻繁に利用されており、日本でも、それに準じたものによって行われております。
- はじめは、再圧治療は空気のみを利用するものでしたが、酸素呼吸を併用する酸素再圧治療が効果を発揮することから、現在では、酸素再圧法が一般的となっています。
- 日本では、治療行為は医師だけに認められており、医療用酸素も薬として認められたものであるので、医師の介入なしに作業現場単独で「酸素再圧治療」を行うことはできません。
減圧障害の判断基準
- 通達「再圧室の適正な管理について」(昭和50.4.7基発第194号)において、以下のように示され、再圧室の使用の是非についても、医師の判断によることとされています。
- 1 意識不明に陥ったも者又は何らかの意識障害のある者
- 2 顔面蒼白、脈拍以上、呼吸困難、胸苦しさ等のショック症状のある者
- 3 言語障害、めまい、はきけ、知覚障害、運動麻痺等の中枢神経障害のある者
- 4 重症の外傷のある者
- 5 その他、高圧下の作業時間、加圧の程度、減圧又は浮上の方法からみて、前記1から3までの症状を起こすおそれのある者とされています。
圧治療開始までの処置
- 酸素再圧治療が非常に効果的ですが、現場からその施設まで搬送しなければならない場合があります。
- 搬送時の処置方法として、搬送ルートをあらかじめ検討しておくととともに、減圧症の悪化のおそれのある標高300mを越える地点を含まないルートを検討しておきます。
- 搬送時には、あおむけにして、頭をさげないよう、また、体温の保持に努めなければなりません。
- 酸素呼吸として、搬送中は、毎分10~15リットルの酸素を供給します。
- 水分摂取し、脱水症状を防ぐため、水分を補給しますが、スポーツドリンクは糖質やナトリウムの吸収の関係から、最適とはいえないので、水で希釈して食塩を添加するなどの工夫が必要です。
再圧治療時の注意点
- 再圧治療時には、発症者は高分圧の酸素にもばく露されるので、次のそれぞれに注意しなければなりません。
- 急性酸素中毒としての中枢神経系酸素中毒(脳酸素中毒)
- 慢性酸素中毒としての肺酸素中毒
- 圧外傷(中耳圧外傷)
- 治療介護者
- 介助者が潜水者である場合、高圧室での高圧下のばく露による繰り返し潜水と同様の効果による減圧症へのり患のおそれなどです。
再圧室
- 法規によって構造規格が定められており、さらに次の事項を満たしていることが望まれます。
- 常用最大圧:500kPa
- ゆっくり寝られる程度の広さを有すること。
- 原則複室型(第二種再圧室)
- 単室構造(第一種再圧室):ワンマンチャンバーなどでも食料や医薬品を差し入れるためのサービスロック(差入れ口)などがあること。
付属設備
- 付属設備については、たくさんありますが、これまでに試験に出題された主なものをあげておきます。
- ベッド、寝具、内部塗装などはすべて不燃性若しくは難燃性の材料を用いること。
- 電気のスイッチと差込接続器は外部に設けること。
- 各室に1個以上、ドアまたは側面で内部が十分に観察できる位置に観察窓を設置すること。
- 各室に安全弁および圧力計を取り付けて、圧力計は、送気の本管にも取り付けておくこと。
- 消火用設備は、スプリンクラー又は水入りバケツ、砂袋等で、窒息のおそれがあるため、消火器、科学消化剤の使用は不可。
- 作業現場に設置した場合は、直射日光、風雨にさらされないような小屋の中に設置し、危険物、火薬類類の付近や、出水、雪崩、土砂崩壊などの危険性がある場所に置かないこと。
- 設置場所、操作場所に関係者以外の立ち入りを禁止する掲示をすること。
- 入室する者について、マッチ、ライターその他の火気携行を禁止する。
- 再圧室内での喫煙、カイロ、その他の火気の使用はもちろん、その携行も禁止することなどです。
再圧室の安全
- 再圧室の安全上見逃せない問題は火災対策です。
- 再圧中に事故が発生した場合、再圧室の機構上直ちに避難することは不可能で、狭い密室であるので火災が発生すると悲惨な結果になります。
- 防火対策は厳重に行い、室内に不要な可燃物は一切持ち込ませない、また、電気器具もスパークしないもの、高温にならないものに限ることが必要です。
- 再圧室内は、酸素の使用、高圧下であるため酸素分圧が高く、火災の危険は日常の場所よりも著しく高まっていることに注意しておかなければなりません。
再圧室の整備
- 再圧室については、高圧則第42条から第46条において規定されています。
- 事業者は、再圧室を使用したときは、その都度、加圧及び減圧の状況を記録した書類を作成し、これを5年間保存しなければなりません。
- 再圧室については、設置時及びその後1か月をこえない期間ごとに、点検し、補修などをしなければなりません。
- 点検結果についてはその記録を、3年間保存しなければなりません。
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