混合ガス潜水
混合ガス潜水
- 空気潜水では、水深40mを超えると高分圧により「窒素酔い」や「酸素中毒」に罹患する恐れがあることから、40m以降の潜水には、それらを回避するため、窒素などの変わりにヘリウムなどを用いた「混合ガス」が用いられます。
- また、ヘリウムは拡散度が大きいので、減圧時に酸素呼吸に変えることで、必要な減圧停止時間を短縮することができます。
- 混合ガス潜水の計画と立案と実施には、専門的な知識と専用の設備、多くの支援人員が必要となることから、簡単に混合ガス潜水などは行えません。
- 混合ガス潜水の範囲には、スクーバ式、送気式、飽和潜水など多くのものが含まれますが、送気式が主流です。
混合ガス潜水の方法
- 水深が深い潜水を行った場合、浮上中に減圧を行うことが通常で「減圧潜水」になり(減圧を行わない潜水を「無限圧潜水」といいます。)、「酸素減圧法」が用いられます。
混合ガス潜水に必要な設備・器材
- 混合ガス潜水は、その潜水時間が長時間になることから、装着感、呼吸抵抗の少ない潜水器が必要で、主に用いられているのは、ヘルメットタイプとバンドマスクタイプでデマンド式呼吸器が装備されています。
ヘルメットタイプ
- 頭全体を完全に保護し、頭部が水に触れることがないため、快適性に優れるが、重量があり、装着に時間がかかる。
バンドマスクタイプ
- ヘルメットタイプよりも重量も軽く、装着も簡単であるが、バンド(スパイダー)で、マスクが外れないようにしっかりと締め付けるため、マスクの当たり面に痛みを感じることがあります。
温水潜水服
- 深度が深いため水温も低いこと、潜水時間も長時間となり、体温を保護するため「温水潜水服」(ホットウオータースーツ)を使用します。
- 海水を船上で温めた温水が温水ホースを通じて、潜水服内に一定量で送られ潜水服内を循環し、水中に排出されます。
- 温水供給量は、一人当たり毎分20リットル以上で、温度は適宜調整します。
アンビリカル
- 送気ホースのほかに、水中電話、温水ホース、深度計測ホース、映像、電源ケーブルなどの複数のホースを一本化したものを「アンビリカル」といいます。
送気ホース
- 混合ガスを充填した高圧ボンベから減圧器、ガスコントロールパネル、送気ホースを経由して潜水者に送気されます。
- 内径は、潜水が浅い場合、4分の1インチ、深い場合は8分の3インチが使われます。
深度計測用ホース
- 深度計ホース(ニューモホース)は内径4分の1インチで、先端部が開口しており、船上から空気を送気すると、空気は潜水深度の水圧により圧縮され、その圧力から計算して潜水深度が船上に表示されます。
音声・映像通信ケーブル
- 音声は、防水マイクロホンとイヤホン又は骨伝導式マイク、レジーバーなどがつながれ、映像は耐圧防水カメラに接続されます。
温水供給ホース
- 深度が深いため水温も低いこと、潜水時間も長時間となり、ドライスーツだけでは、体温を保護することができないため、温水潜水服に温水を送るホースで、内径2分の1インチと大きく、温水供給量は、一人当たり毎分20リットル以上です。
水中ビデオカメラ・水中ライト
- 潜水者の作業をモニターすることで、安全作業と効率化、作業記録などに役立ちます。
混合ガスカードル・酸素カードル
- 混合ガス及び酸素の供給は、複数本のボンベをまとめた「カードル」といわれるものが使用され、混合ガスは数本から30本、酸素は6本から9本のボンベが組み合わされています。
- ガスの種類や容量によって、高圧ガス保安法の適用を受けることがあります。
ガスコントロールパネル
- 混合ガス潜水では、潜水中に送気する呼吸ガスを切り替えるため、この切替え装置を「ガスコントロールパネル」、「ダイビングコントロールパネル」といい、切り替えのほかに、送気圧の調整や深度計も備えています。
- 持ち運びができる1人から2人用のものと、音声通話装置、映像モニター、送気ガスの濃度をモニターなどを備えた3人以上に送気できる「コンテナ収納式」があります。
ダイビングベル
- 潜水深度が深くなると潜水者自身の力で潜降・浮上するには体力的、時間的、精神的にも負担が大きくなるため、「ダイビングべル」という装置を使用します。
- 「ダイビングベル」に潜水者が乗って、昇降機を通じて潜水者の搬送を行います。
- 潜水者を完全に水中から隔離する「ドライタイプ」と半分程度中に水がある「ウエットタイプ」の2種類があります。
- ダイビングベルによって、正確な減圧管理も行うことができます。
水中昇降装置
- 昇降装置は、LARSと呼ばれ、ダイビングベルトと連結されたワイヤーとウインチからなっています。
- 使用する場合は、先にアンカーウエイトを下ろし、そのアンカーのワイヤーに従って昇降させ、横揺れなどの動揺をおさえます。
- 昇降速度は、調整することができ、最大で毎分20m程度です。
混合ガス
混合ガスの準備
- 潜水作業計画に基づいた、潜水深度、滞底時間によって使用するガスの種類を決めて、ガス成分の混合割合の誤差が極力少ない物を余裕をもって十分に必要な量を準備します。
- 混合ガスは、潜水現場で自ら混合する方法とガス会社の専門工場に製造を依頼する方法があります。
- 高い混合精度が求められるため、通常は、ガス会社から提供を受けることがほとんどです。
混合ガスの管理
- 混合ガスはガス会社が発行する成分ガス分析表などによって確認するが、ガス分析器などを用いて確認することが望ましい。
- 混合ガスを誤ってしようすると重大事故に発生するので、取り違いなどがないよう十分な識別管理が必要です。
- 混合ガスの量は、ボンベ、カードルの容積とガス圧から知ることができ、当該業務で消費使用するガス量に十分なだけの圧力であることを確認します。
酸素減圧
酸素減圧とは
- 混合ガス潜水では、減圧時間を短縮するため「酸素減圧」が用いられ、水中の所定の水深から酸素呼吸に切り替える「水中酸素減圧」が行われます。
- 高圧化での酸素呼吸による中毒(中枢系酸素中毒)を防止するため、一定時間酸素を呼吸した後、5分間の空気呼吸に切り替える(エアブレイク)を行うようにします。
- そのほか、日本では高圧則の関係から現時点では許可にはなりませんが、「水上酸素減圧」もあります。
水中酸素減圧の方法と必要な設備
- 通常9mから6mの水深から行われ、潜水者に送気している混合ガスを酸素に切り替えます。
- 切り替えを安全確実に行うため、ガスコントロールパネルを用いて、潜水者の水深や状態を確認しながら切り替えを行わなければなりません。
等圧気泡形成
- 混合ガス潜水の減圧途中で、ヘリオックスから空気やナイトロックスなどの呼吸ガスに変更した場合に等圧気泡形成(アイソバリック・バブル・フォーメーション)という肺内に気泡が生じる可能性があることが指摘されています。
- 呼吸ガスを減圧中に変更する場合は、専門家の指導・助言のもと慎重に行わなければなりません。
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