危険性及び事故発生時の措置
潜水業務の危険性及び事故発生時の措置
- 水中は、地上とは全く異なる環境下であり、また、圧力や高圧の空気などを呼吸し、特有の物理現象などもあるため、危険性をよく心得ておく必要があります。
潜水業務による危険性
浮力によるもの
- 吹き上げ(ブローアップ)と潜水墜落(転落)
- 吹き上げは、減圧症、肺圧外傷、空気塞栓症などの障害につながります。
- 潜水墜落は、圧力増加による送気不足やスクイーズ(締め付け障害)などにつながります。
水圧によるもの
- スクイーズなどで高気圧障害につながります。
圧縮空気によるもの
- 減圧症や窒素酔い、浮上の際は、肺圧外傷の原因につながります。
送気によるもの
- 送気空気への有害ガス(一酸化炭素)などの混入
- 空気取り入れ口の位置などに注意しなければ、一酸化炭素中毒につながります。
- 過度の送気
- 吹き上げの原因につながります。
- 過少送気
- 潜水墜落事故や炭酸ガス(二酸化炭素)中毒の原因につながります。
潮流によるもの
- 送気式潜水では、潮流により送気ホースが流され、抵抗が大きくなります。
- ホースのたるみすぎは、抵抗が増え、負荷が大きくなります。
- ホースの張りすぎは、潮流により一気に吹き上げられます。
- ホースの太さなどで、ヘルメット式より、全面マスク式、スクーバ式の順で抵抗が小さくなります。
水域の環境による危険性
- 水温、透明度、海中生物、潮流、海底の状況など、水域によって大きく異なっているため、それぞれの水域の特徴を理解しておくことが重要です。
海洋での潜水
- 温度、透明度、密度、海中生物、水面の状況の影響
- 潮流の影響
- 潮流は、湾口、水道、海峡といった狭く複雑な地形では強くなります。
- 潮汐の影響
- 潮汐の干満は通常1日に2回、その周期は約12時間25分
- 満潮から干潮 潮流は沖合いに向かって流れる(下げ潮)。
- 干潮から満潮 潮流は沖合いから岸に向かって流れる(上げ潮)。
- 潮汐の干満は通常1日に2回、その周期は約12時間25分
- 上げ潮と下げ潮の間の流れの停止した状態を憩流(潮だるみ、潮どまり)といい、潮流の早い場所では、憩流の時期に限って行うのが望ましい。
湖沼での潜水
- 海面よりも高い場所で行われることが多く、水面の気圧が海面より低くなります。
- 海洋と同じ水深と潜水時間であっても、水面の圧力の差から長い減圧時間が必要となります。
- 減圧方法を水面気圧の低下に応じて、補償、調整しなければなりません。
- ダムなどの人工湖では、水中の障害物に十分注意します。
河川での潜水
- 流れの速さに注意します。
- 流されないように命綱の使用やウエイト重量の増大によって、2.5ノット(時速約4.5km)程度までの流れの中での潜水作業が可能とされています。
- 流れによる堆積物の巻上げにより水中視界が阻害されます。
- 上流で雨が降った場合は、水中視界が全く失われることがあります。
暗渠内(閉所)での潜水
- 機動性からスクーバ式が用いられることが多い。
- エアー切れによる事故に注意しなければなりません。
- 出入り口の間での距離、ガイドロープ。呼吸ガスの多数の準備や救援潜水者の配置も不可欠です。
- 潜水作業として非常に危険であり、潜水者には豊富な潜水経験と高度な技術、精神的強さが要求されます。
- 急に水門が開いて流されたり、ポンプが作動して吸い込まれたりする事故にも注意が必要です。
汚染水域での潜水
- 都市部の河川、港湾、下水道などでの潜水業務は、細菌、ウイルスによる疾患、皮膚の化膿などの危険性があります。
- スクーバ式など皮膚などの露出部分が多い潜水器は不適当であり、全面マスク式などが必要です。
- ドライスーツ、フード、手袋を着用し、露出部分を少なくします。
- 作業後は、全身の洗い流し、入浴、潜水器具の洗浄します。
冷水域での潜水
- 潜水者の体温を保護することが重要です。
- 体温の低下は作業能力や集中力、作業効率に影響を及ぼします。
- 水温20℃以下の場合は、ウエットスーツの着用は必須で、15℃以下ではドライスーツの着用が必要です。
- 逆に水温が30℃以上の過度に高い水温も極度の疲労感を生じさせます。
- 特に低い水域では、温水潜水服が用いられ、送気ホースから温水が供給され、体温を保持します。
- 潜水呼吸器(デマンドバルブ)なども凍結対策が施されているものを使用することが必要です。
高所での潜水
- 高所では、海抜ゼロメートルのときよりも絶対圧力が小さくなるので。「深度補正」が必要となります。
- 100m以上の高所では、運度補正を行わなければなりません。
- 通常の減圧表は、海抜ゼロメートルを標準としたのもであるので、高所でそのまま減圧表を使うことはできませんし、深度計も実際の深度を表示しません。
- 高所潜水では、測深ロープ(ショットライン)を使用して実際の深度を測ります。
- 海抜1,500m以上の潜水では、浮上速度も通常の20~30%も遅くゆっくり浮上します。
代表的な潜水事故と予防法
潜水墜落
- 潜水は浮力を調整すために浮力調整具(BC)やウエイトを使用しますが、BCに空気を送気しすぎたり、ウエイトが外れたりして浮力調整に失敗すると急速に浮上します。
- そのため、急速に浮力を減少させると、浮力が減少して沈降しはじめ、沈降するとさらに圧力の均衡が崩れ、一気に海底まで沈んでしまいます。
原因
- 不適正なウエイトの装備
- 急激な潜降
- さがり綱(潜降索)の不使用
- 吹き上げ時の処理の失敗
- ドライスーツやBCの排気弁の故障又は操作ミス
予防法
- 潜降、浮上に当たっては、必ずさがり綱(潜降索)を使用します。
- 潜水者は潜水速度を変えるときは、必ず船上に連絡します。
- ウエイト(鉛錘等)は浮力の変化を十分に考慮して選びます。
- ドライスーツやBCの排気弁の点検を確実に行う。
吹き上げ
- 潜水墜落とは逆の現象で、ドライスーツを使用した場合、スーツ内部の圧力が水圧より高くなった場合に、空気の容積の膨張により、体積が増加して浮上をし始め、浮上により水深が浅くなるとさらに水圧が小さくなり、体積が増加して一気に海面まで浮上してしまいます。
原因
- 潜水者のドライスーツ排気弁の誤った操作
- 浮力調整具(BC)の排気弁の誤操作
- 頭部を胴体より下にする姿勢をとったときに、空気を尻や足の部分に溜まらせたために逆立ちの状態になってしまった場合
- 潜水墜落時の対応の失敗
- 突発事故により潜水者が身体の自由を損われた場合
予防法
- 潜降、浮上時には必ずさがり綱(潜降索)を使用する。
- 身体を横にする姿勢をとるときは、潜水服を必要以上に膨らませない。
- 潜水者は潜水深度を変えるときは、必ず船上に連絡します。また送気員は潜水深度に適合した送気量を送気します。
- ウエイト等は浮力の変化を十分に考慮して選びます。
水中拘束
- 送気式潜水では、送気ホースやアンビリカルがが船のフックやクレーン、スクリューに絡みついたり、重量物の下敷きになってしまったり、スクーバ式潜水では、ロープ等の潜水器への絡みつきやダムの取水口へ足等を吸い込まれたりなどして水中で身動きが取れなくなってしまいます。
原因
- 送気ホースがスクリューに絡みついてしまったり、重量物の下敷きになったりする。
- 作業に使用したロープなどが絡みつく。
- 取水口等に足を吸い込まれる。
- 沈船や洞窟に入って障害物に引っ掛かる。
予防法
- 作業現場の状況をあらかじめます。
- 障害物を通過するときは、その経路を覚えておき帰りも同じ経路を通ります。
- 障害物は周囲を回ったり下を潜り抜けることはせず、なるべく上を越えて行くようにします。
- 使用済みのロープ類は放置しないで船上に回収します。
- 救助に向かうことのできる潜水者(スタンバイダイバー)を待機させておきます。
- 沈船や洞窟などの狭いところに入る場合には、必ずガイドロープを使用します。
措置
- 水中拘束された場合、拘束によって潜水時間が計画よりも超過してしまった場合は、それに対応する減圧時間によって浮上しなければならない。
溺れ(溺水)
原因
- 気道や肺に水が入ってしまったため呼吸ができなくなり、窒息状態となる場合や水が鼻に入ったとき反射的に呼吸が止まってしまう場合などがあります。
- スクリューによる送気ホースの巻き込み、切断、重量物の下敷などにより送気が中断してしまう場合もあります。
- スクーバ式潜水の場合は、窒素酔いやパニツクなどにより溺れる場合や不完全な装備や潜水技術の未熟に起因することも多い。
予防法
- 送気式潜水では、緊急ボンベを携行します。
- 事故その他緊急事態に対する十分な教育と訓練と施します。
- 潜水前の器具の十分な点検・整備を励行します。
- 身体の調子が悪い時は潜水をしてはなりません。
- スクーバ式潜水には救命胴衣またはBCを必ず着用します。
- 命綱を必ず使用する。
- 潜水作業船にはスクリューによる送気ホース切断事故を生じないよう、クラツチ固定装置やスクリュー覆いを取り付けます。
措置
- 万が一、溺れが発生した場合、上気道から水や異物を取り除きます。
- 胸骨圧迫(心臓マッサージ)ならびに必要により人工呼吸など救急蘇生を実施します。
- 医師に連絡し、速やかな治療を受けさせます。
海中生物による危険性
- 平成28年10月第6版の潜水士テキストでは、第3章 高気圧障害の潜水による障害(p238)に記載されておりますが、このサイトでは従来どおり危険性のところに記載しております。
- 海中の生物による危険性は、生物によって異なります。
原因
- かみ傷
- サメ、シャチ、オニカマス、ミズタコ、ウツボ等によってかまれるもの。
- 切り傷
- サンゴ、フジツボ等の鋭いふちをもったものに触れて切られるもの。
- 刺し傷
- クラゲ類、イモガイ類、オニヒトデ、ガンガゼ、ゴンズイ、オニオコゼ、ミノカサゴ、アカエイ等によるもの。
症状と処置
- 魚・ウニなどの刺傷(毒棘)
- 強い痛み、腫れ、しびれ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、呼吸困難など
- エイの尾部、オコゼの背ひれ、ガンガゼの棘など
- 傷口を洗浄し、棘を抜き、熱いお湯に浸して、病院へ行きます。
- 強い痛み、腫れ、しびれ、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、呼吸困難など
- クラゲ・イソギンチャクなどの刺傷
- 痛み、赤く腫れ、水膨れ、かゆみ、しびれ、めまい、吐き気、歩行困難、呼吸困難など
- カツオノエボシやイソギンチャクの触手など
- クラゲの種類によって、処置方法が異なるので注意が必要で、海水で触手などを静かに洗い落とし、病院へ行きます。
- 痛み、赤く腫れ、水膨れ、かゆみ、しびれ、めまい、吐き気、歩行困難、呼吸困難など
- ウミヘビ・ヒョウモンダコ咬傷、イモガイ刺傷
- 神経毒を持っているのが多い。
- しびれ、麻痺、呼吸困難、ショック、歩行困難
- 直ちに病院へ、歯などが残っている場合は、抜き取る。
- 神経毒を持っているのが多い。
予防法
- 生物の危険性、見分け方を十分に知り、むやみに近づかないこと。
- 潜水海域にどのような危険生物が生息しているか事前に調べておくこと。
- 危険な生物の生態及び習性を十分に把握すること。
- サメ、特に危険性の高いものは、ホオジロザメ、イタチザメ、オオメジロザメ、ドタブカであるといわれています。
サメに対する予防方法
- 海水がにごって視界が悪いときは攻撃を受けやすい。
- サメの多い地域では夜間の作業は行わない。
- 獲物を持って泳がないなど。
- 怪我などで出血したときは、直ちに海から上がる。
- 船上から残飯の投機は、サメを誘引することになるので行わない。
水中作業による危険性
- 平成28年10月第6版の潜水士テキストでは、作業による具体的な危険性については省略されておりますが、このサイトでは旧テキストに基づき、記載しております。
ブロック、漁礁等の据付作業
危険性
- ブロックに挟まれる。
- 落下の下敷きになる。送気ホースがブロック等の下敷きになり送気が途絶える。
予防法
- ブロックには、動揺が収まってから近づきます。
- 連絡員は、航跡波や大きなうねりに注意し、それが認められた場合には、水中電話で潜水者に注意を喚起します。
- 送気ホースがクレーンの巻上げワイヤに絡んだり、ブロックの下敷きにならないように注意します。
- ブロックの移動を行うときは、周囲の状況をよく観察し、不安定なものを先に移動します。
水中溶接・溶断作業
危険性
- 水中溶接・溶断作業では、身体の一部が溶接棒などの先端部と溶接・溶断母材の両方に同時に接触すると苦痛を伴うショックを受けます。
- 感電による生命の危険はありませんが、ショックによる二次的災害に対する注意が必要です。
- 大型鋼材等の水中溶接や溶断作業では、周囲の状況によっては作業時に発生したガスが滞留し、ガス爆発の危険があります。
- ガス爆発が発生した場合には鼓膜を損傷する場合があります。
予防法
- 溶接用ケーブルやホルダー、酸素ホース等の損傷や劣化の点検
- 溶接棒などと母材の間に身体を置かない。
- 電源スイッチの開閉は潜水者の指示に従って実施するなど。
サルベージ作業
危険性
- 沈没繊維かかわる作業となるため、特に周囲の障害物の散乱
- 沈没船の不安定な状態
- 水中拘束や船内への閉じ込め。
- クレーン作業による吊り下げ物の動揺や落下など。
予防法
- クレーン操縦者との十分な事前打ち合わせ
- 救助するための支援潜水者(スタンバイダイバー)の配置
- 周囲の散乱障害物や沈没船の破損箇所に送気ホースや潜水装備が絡みついたりしないように注意します。
- クレーンによる吊り下げ作業時には、作業を中断し安全な場所で待機します。
潜水作業船を使用する場合
危険性
- 船体・コンプレッサーの振動によりクラッチが誤作動し、スクリューが回転を始め、潜水者や送気ホースに障害をおよぼすことがあります。
予防法
- クラッチ固定装置の設置又はスクリュー覆いを設ける。
- 潜水中は、推進器による移動を行ってはなりません。
- 潜水者は作業船と自身の位置を常に把握し、むやみに推進器に近づいたりすることのないようにします。
- 連絡員は、潜水作業に関係のない船舶が作業水域に侵入しないように赤旗等によって注意を喚起します。
- 潜水者は作業船の下をくぐらないようにします。
交信設備の確保
- 潜水者の動向の把握と安全の確保のため、水中電話などの交信設備を装備させる必要がある。
- 送気式潜水の場合だけでなく、スクーバ式潜水であっても優先又は無線の交信設備を装備させることが望ましい。
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