潜水障害とその対策
潜水障害とその対策
医学面よりみた潜水の特徴
- 水中環境と陸上との違いは、「圧力が大気圧より大きい」、「呼吸の確保」、「体温への影響」の3つを安全に管理しなければなりません。
- また、陸上では直接、致死にいたらないような疾患でも水中では場合によっては致死にいたることもあるので、一般的な疾患についても注意しておかなければなりません。
- 身体への影響として、以下の3つがあります。
圧力が関係する疾患
呼吸ガスによる疾患
温度の影響
です。
圧力が関係する疾患
- 圧力が関係する疾患として次の二つに大別されます。
- 潜水中の環境圧力が増加することによって体内に溶け込んだ窒素などの不活性ガスが、浮上による環境圧力の低下によって気泡化することによって起こる「減圧症」があります。
- もうひとつは、体内の気体を含んだ空間(肺や副鼻腔など)の容積が、環境圧力増減の変化によって生じる「圧外傷」があります。
減圧症
- 環境圧力は10m深く潜水するごとに約1気圧増加し、体内に溶け込む窒素などの不活性ガスも増加し、その量は潜水深度が深くなればなるほど、また、時間が増すほど大きくなります。
- 逆に浮上する場合は、その環境圧力化で通常体内に溶け込んでいる不活性ガスの量よりも多くの不活性ガスが体内に溶け込んでいることになり、限度を超えると不活性ガスが気泡化します。
- この発生した気泡が減圧症の原因であると考えられていますが、そんなに単純なものではないとされています。
- 気泡が発生しても、病状を呈していないときに見られる気泡を「サイレントバブル」といいます。
- 極めて多数の気泡が出現した場合は、気泡による肺毛細血管の塞栓症を来たし、チョークスと知られる重篤な肺減圧症を起こしたりします。
- 手術や外傷を受けたり、一度減圧症に罹患したりすると、体内の組織内の非常に小さな凹凸により気泡ができやすくなると言われています。
- 激しい運動は、小さな気泡を外側へ排出する力が働き気泡を形成しやすくなります。
- ベンズとは減圧症を表す言葉として用いられているもので、軽症の減圧症を表すものではありません。
症状と診断
- 基本的に1型と2型に分類されます。
- 1型減圧症(局所の症状で軽症)
- 皮膚掻痒感(かゆみ)
- 皮膚の発赤 大理石班
- 皮膚あるいは関節の痛み
- リンパ浮腫
- 皮膚の大理石班、リンパ浮腫を発症した場合は、重い減圧症に進行する可能性があります。
- 2型減圧症(全身に及ぶもので重症)
- 脊髄 ー 知覚障害、運動障害、直腸膀胱障害等
- 脳 ー 頭痛、意識障害、けいれん発作等
- 肺(チョークス)ー 前胸部違和感、胸痛、咳、喀痰等
- 内耳 ー めまい、吐き気、耳鳴り等
- ヘリウムと酸素を多く使用する混合ガス潜水時に起きるのが特徴で、ガススイッチを行った直後に起きやすいといわれております。
- ショック
- 腹痛、腰痛等
- その他
減圧症であるかないかの判断(要因)
- 潜水後にこれらの症状(異常)を感じたとき、医療機関を受診する。
- 規定の減圧表から大きく逸脱した無謀な減圧をした場合は、リスクが高い。
- 浮上から発症までの時間
1時間以内 | ―42% |
3時間以内 | ―60% |
8時間以内 | ―83% |
24時間以内 | ―98% |
- 長時間の潜水、飽和潜水、潜水後の飛行機搭乗、高所移動した場合では、浮上後24時間以上経過後でもは発症する事があります。
予防
- 減圧表を遵守して浮上しても減圧症に罹患しないということは100%ありません。
- 不活性ガスの取り込みの増加
- 作業量の多い重労働の潜水
- 不活性ガスの遅い排出
- 減圧中の体温の低下(血管の収縮)による血流の減少
- 減圧中に体を全く動かさないことによる血流の流れが少ないなど。
じっとしている必要はないが、過度の運動は避けなければなりません。
- 減圧中に体を全く動かさないことによる血流の流れが少ないなど。
- 窒素とヘリウムの不活性ガスの違いによるり患の違い
- すべての減圧症の発生率については、窒素を用いたほうがすべての減圧症発生率について多くなるが、2型減圧症に限れば、ヘリウムを用いた潜水に多いという傾向もありますので、ヘリウムを用いた潜水が必ずしも減圧症に有利であるとも限りません。
罹患しやすい人
- 高齢者
- 外傷や手術を受けた人
- 脱水症状
- 潜水中は浮力等の関係で循環血液量が増大するため、脱水傾向になるります。
- 炭酸ガス中毒の場合も罹患しやすくなります。
- 不摂生、睡眠不足も好ましくありません。
- 減圧表の適用
- 深度の1段階深い、あるいは潜水時間の1ランク長い減圧表を適用するなどして、予防上を図ります。
処置
- 水分の補給
- 医療機関の受診
- 医療機関到着までの間の酸素呼吸が望ましいとされています。
圧外傷
- 不均等な圧力は、非常に小さい圧力差でも圧外傷にり患することがあります。
- 体内の内部の気体を含んだ空間
- 面マスクの中
- 潜水器材と体の表面との間の空間など
- 潜降(スクィーズ:締め付け)
- 体腔内の容積の減少による粘膜の腫脹、体腔内への出血
- よく発生するのは、中耳腔、副鼻腔、面マスクの内部、潜水服と皮膚の間などです。
- 浮上(ブロック)
- 体腔の容積が増えることによる気体の周囲への圧迫による痛み、血管内への侵入
- よく発生するのは、副鼻腔、肺、中耳腔などでです。
- 圧外傷は、非常に小さな圧力差でも発生します(例、深さ1.8mのプールでの発症事例もあります。)。
- 容積の変化は、浅いところでのほうが大きく、浅いところで罹患しやすいからです(ボイルの法則参照、圧力が2倍、3倍になると体積は2分の1、3分の1になりますが、逆に圧力が減少すると体積は3分の1、2分の1増加します。このことは水深20mから10mまで浮上する体積の容積の変化よりも、10mから水面まで浮上する体積の容積の変化は大きくなります。)。
症状
肺圧外傷
- 肺から空気がスムーズに排出できないと肺は過膨張となり、肺胞障害を引き起こします。
- 行き場を失った空気が肺の間質に侵入し、肺間質気腫を形成します。そして、縦隔に達すると、縦隔気腫を来たします。
- さらに頸部に移ると首筋を中心とした皮下気腫を引き起こします。
皮下気種は、その部分がむくんだようになり、その部分を押すとグニュグニュした感触になります。
- また、胸膜腔の間に肺の空気が漏れ、肺が小さくなり呼吸困難になる気胸や空気塞栓症も引き起こすことがあります。
症状
- 胸痛、咳、血痰、息苦しさ、発熱、悪寒、皮下気腫による腫れなど
原因
- 潜水の異常によるもの
- レギュレーター異常によるフリーフローやボンベのエア切れによる呼吸ガス供給トラブル
- コントロールできない急浮上となる浮力調整ミス
- 浮上中の深呼吸やスキップブリージング(呼吸ガスをちょっとだけ吸い込む方法、ボンベ内の呼吸ガスを長く持たせるため行う呼吸ですが、炭酸ガス中毒を引き起こすことがあるので、行ってはなりません。)
- 身体の異常によるもの
- パニック、咳、気管支炎や喘息による気道狭窄、気胸等の既往暦による肺の脆弱などがあります。
- また、浮上のバディ同士の呼吸緊急訓練などの際にも起きやすいので、り患した場合の体制などを整えて訓練することが望ましい。
副耳腔圧外傷
- 顔面の骨の中に、上顎洞、前頭洞、蝶形骨洞、篩骨洞と呼ばれる4つの空間があります。
- いずれも管によって鼻腔に開口し外界と通じており、副鼻腔とも言われます。
- 生まれ付つき、副鼻腔が通気性が悪かったり、風邪などによる炎症のため塞がった状態で潜水すると、圧外傷にり患することになります。
症状
- 額の周りや目や鼻の根部などの痛み、閉塞感、鼻出血などです。
耳の圧外傷
- 耳は、外耳、中耳、内耳の三つに分かれています。
- 外耳(鼓膜より外の部分)
- 通常、圧外傷を起こすことはないが、耳栓、フードなどを着用した場合、外耳圧外傷にり患することがあります。
- 症状としては、外耳道内の出血、耳栓による鼓膜の損傷などです。
- 中耳
- 耳管によって、咽頭と通じているが通常は閉じています。
- 潜水時には耳抜きによって、耳管を開き、中耳腔内の圧力を高めて圧力を均等(均圧)にします。
- 耳抜きが上手くいかないと内耳に圧外傷を生じます。
- 症状としては、耳の痛み閉塞感、難聴、鼓膜の損傷によるめまい、感染症などです。
- 内耳
- 内耳圧外傷は、潜降で耳抜きが困難であるときに、無理な耳抜き動作が原因とも言われ素もぐりで起きやすいといわれてます。
- 症状としては、難聴、耳鳴り、めまいなどです。
- その他の圧外傷
- 潜水服と皮膚の間、面マスクと皮膚や目の間の空間による圧外傷
- 潜行による潜水服の締め付けによる皮下出血、面マスクの顔面への圧迫による皮下出血
- 虫歯の処置後による歯の空洞の圧外傷による痛み
予防
- 潜降時
- こまめに耳抜き、マスクの均圧を行い、無理に深く潜らないようにします。
- フードを強く締めすぎないように、また、風邪をひいた時は、耳管の通じが悪いので無理して潜水しない。
- 浮上時
- 肺圧外傷を避けるため、常に息を吐きながら浮上します。
- 浮上速度を早すぎないように注意します。
- 咳や痰があるときは気管支の閉塞の可能性があるので、潜水しないことです。
空気塞栓症 (動脈ガス塞栓症)
- 急浮上した場合、又は充分に息をはかないで浮上した場合に、肺は過膨張となり、行き場を失った空気が肺の間質気腫を形成します。
- その空気が更に肺の毛細血管へ進入し、空気が気泡状となって血管内を移動して肺から心臓に至ります。
- そこから動脈血に含まれた空気の気泡が全身に送られ、その先で血管を塞栓し、疾患が起こります。
- 問題となるのはその血管の先が、網目状になっていない「終動脈」といわれる血管で構成されているところで、そこが脳と心臓の重要な部分にあります。
- 潜水で主に起こるのは脳の塞栓症です。
症状と予防
- 浮上後、すぐに意識障害やけいれん発作等の重篤な症状が現れます。
- 水面浮上後10分以内に発症する例が多く、95%は水面浮上後2時間以内とされています。
- 普通に浮上したときにも起きる可能性がありますので、心筋梗塞などと間違わないようにして、空気塞栓症と判断した場合には、適切な蘇生措置を行いながら、再圧治療ができる医療機関へ搬送します。
- 可能であればその間に酸素を吸入させます。あおむけの状態にし、気道を確保をしておきます。
予防
- 常に息を吐きながら浮上します。絶対に呼吸を止めてはいけません。
骨壊死
- 骨の病変であり、なんらかの原因により骨組織が破壊されるものです。
- 減圧症に罹患した人や無謀な潜水を繰り返した潜水漁師などに多く見られることから、減圧症と何らかの関係があるとされています。
症状
- 骨の幹部に発症した場合は、大きな障害はありませんが、骨の端部(関節などの部分)に発症した場合は、歩行障害、激しい痛みが伴います。
予防
- 減圧表を遵守して、減圧症にり患しないようにすること。
- 減圧症に罹患した場合には、再圧による充分な治療に努めることなどです。
a:9584 t:1 y:0