送気・潜降および浮上
送気・潜降および浮上
- ここでは計算問題、図や絵が問題に描かれており空欄となっている送気の流れや器具の部位の名称を入れる問題が出題されたりします。
- 計算問題は、空気容量を計算する問題、給気可能時間を求める計算問題などが出題されます。
- 平成27年4月の一部改正高気圧安全衛生規則により、混合潜水や減圧計算が全面的に見直された経緯から、減圧理論・半飽和組織、M値の計算、空気潜水と混合ガス潜水の減圧表など以前の減圧表による計算とは全く異なり、その内容も複雑で理解も計算も困難なものとなっております。
- できるだけわかりやすく説明及び計算の方法を書いているつもりですが、テキストをよく読み、理解を深めることが重要です。
- 一部改正高圧則では、事業者はもちろん、潜水者自らも減圧計算をできるよう求められておりますので、しっかりと勉強することが必要です。
項目
潜水業務に必要な給気及び送気
潜降及び浮上
適正な浮上(減圧)速度の制定
減圧計算の実際
個別の潜水状況への対応
減圧表の位置づけ
潜水の業務に必要な給気及び送気
- 呼吸ガスの種類、潜水方式によって、給気や送気の方法は異なりますが、どちらも潜水者の活動に十分な量を確保し、供給し、緊急用の呼吸減を準備しておくことが必須です。
- 高圧則では、圧縮空気の品質、混合ガスの組成や混合精度などについて規定はありませんが、十分注意しなければなりません。
空気潜水における給気及び送気
- 圧縮空気を使用する方法で、コンプレッサーで必要な圧力まで圧縮して使用します。
- 清浄な空気を使用するよう、空気取り入れ口の設置場所、風の向き・変化に注意して、排気ガスなど(一酸化炭素)が入らないように十分注意しなければなりません。
- 高圧則第37条では、コンプレッサーは、最低でも1週間に1回以上の点検を行い、空気洗浄装置は1か月に1回以上、点検することが義務付けられています。
スクーバ(自給気式)潜水方式に必要な給気
- 潜水者が携行する高圧ボンベの本数、高圧ボンベの充填圧力、又は空気圧力、および潜水深度と潜水者の呼吸量によって決定されます。
- 特に、深い水深の潜水を行う場合には、短時間で給気量を消失しますので、給気能力を常に把握しておくことが必要です。
給気量の計算
- 給気量の計算は、ボイルの法則によって求められます。
- P(大気圧)×V(大気圧下での容積)= P2(高圧ボンベ内の空気圧力)×V2(高圧ボンベの容積)
- ※ 高圧ボンベの圧力は、ゲージ圧力であることに注意する。
- 例)19.6MPaで充填された容積14リットルの高圧ボンベの空気容量を大気圧に換算すると、
- 1Mpa×大気圧下での容積 = 19.6MPa×14となり、
- 大気圧下での容積は、=2,744リットルとなります。
- ボイル・シャルルの法則
- 温度の変化と気体の圧力と体積の変化の関係
PV P2V2
ーーー = ーーー
T T2
- 低い水温によって、高圧ボンベ内の空気が冷やされると、圧力が低下し、空気容量も影響を受けます。
- 大気圧でのボンベの圧力をP、水中でのボンベの圧力をP2、絶対温度をT、水中での絶対温度をT2、大気圧のボンベの内容積をV、水中でのボンベの内容積をV2とすると、
- 空気温度が50℃であったものが、このボンベを使用して、水温20℃の水に潜水し、タンク圧力がに19.6MP(メガパスカル)であった場合、水中でのボンベの圧力は、
19.6×14 P2×14
ーーーーーー = ーーーーー
273+50 273+20
274.4 14P2
ーーーーーー = ーーーーーー
323 293
80399.2 = 4522P2 = P2 =17.77
- 潜水者が空気を消費したわけではないのに、19.6MPaから17.8MPaまで圧力が減少します。
- この時のボンベの容量が14リットルのとき、この圧力を空気容量に換算すると、ボイルの法則から
- 0.1MPa×V=19.6MPa×14=2,744リットル
- 0.1MPa×V2=17.8MPa×14=2,492リットル
となり、約252リットルも減少したことになります。
- 気温と水温にも空気容量が影響されることを覚えておきましょう。
給気可能時間(潜水可能時間の算出)
- 高圧ボンベの空気容量がわかれば、それと潜水者の空気消費量から給気可能時間(潜水可能時間)を求めることができます。
- 潜水者の呼吸量は、作業・運動内容により異なり、個人差もありますが、スクーバ式潜水の場合は、毎分13リットルから、重労働では50リットルも消費し、平均では毎分約20リットル程度消費します。
- 潜水者の呼吸量の平均値に、潜水深度に相当する圧力を乗ずると空気消費量を求めることができます。
- 例)水深20mで潜水する空気消費量は、3気圧(20m)×20リットル=60リットル
- 高圧ボンベの空気容量を、空気消費量で割ると給気可能時間(潜水可能時間)を求めることができます。
- 求める場合には、緊急用の空気量を確保しておくために、5MPaを実際の圧力からあらかじめ差し引いて計算し、用いるようにします。
- 例) 水深20mで、容量14リットル、圧力19MPaのボンベの給気可能時間は、
- 0.1×V(高圧ボンベの空気容量)=(19ー5)×14となり、1,960リットル
- この容量を水深20mでの消費量60リットルで割ると、1960÷60=32.66 約32分となります。
- スクーバ潜水では、状況により空気消費量が変化するので、常に潜水時間と残圧計による空気圧力を把握しておかなければなりません。
高圧ボンベへの圧縮空気の充填
- ゲージ圧力1Mpa以上の気体は、すべて高圧ガス保安法の適用対象となります。
- 充填する場合は、高圧ガスの製造に該当するため、1日(24時間)の処理容積によって、高圧ガス保安法第5条第1項、同法施行令第3条の適用を受け、圧縮空気の容積が300立法メートル以上のコンプレサーを使用する場合には、都道府県知事の「許可」を受け、有資格者の配置も求められます。
- また、300立法メートル未満の場合には、製造開始の20日前までに「届出」なければなりません。
送気式潜水における送気
- 送気式潜水における空気の送気は、コンプレッサー、高圧ボンベ、若しくはその両方を使用して行われます。
- 高圧則第28条で、ヘルメット潜水器などの定量送気式潜水器と、全面マスク潜水器などのデマンド式(応需式)潜水器では送気量及び送気圧力が定められています。
- 送気設備に求められる要件は、
- 潜水者の呼吸変化に十分対応できる送気容量を有すること。
- ヘルメットや全面マスク内に炭酸ガスが滞留しないように、十分に換気することができる送気量であること。
- 送気ホースや継手による圧力損失、および潜水深度での水圧に打ち勝つ送気圧力であること。
定量送気式潜水方式に必要な送気
送気量
- 定量送気式潜水器では、呼気がヘルメット内に吐き出されてヘルメット内の空気と混ざり、炭酸ガス濃度が増大します。
- 呼気中の炭酸ガス分圧が1.5kPa(大気圧下で1.5%の濃度)を越えると炭酸ガス中毒の作用が生じるリスクが高くなります。
- 炭酸ガスの蓄積は、減圧症のリスクを高めることにもなります。
- 高圧則第28条では、潜水者ごとに、その水深の圧力下で、毎分60リットル以上の送気量とするよう規定されています。
- 炭酸ガスによる反応には個人差があり、同一人でも日によって変化します。
- また、作業が激しいほど呼吸量が増大し、排出される炭酸ガス量も増えるのでそれに見合った送気能力を有するものが必要です。
送気圧力
- 定量式送気式潜水は、送気ホースや配管類、継手、バルブ等により送気圧力は損失するので、その損失分を加えた圧力以上が必要です。
- 配管方式や送気するホースの長さなどによって、圧力損失の度合いは異なりますが、一般的には100kPa~300kPa(0.1~0.3MPa)程度です。
- 例)水深15mでの送気圧力
- 水圧150kPa+100kPa~300kPa=250~450kPa以上 ※ ゲージ圧であることに注意
- 圧力調整器が装備されてないため、ヘルメット式潜水の腰バルブのわずかな操作ミスによっても吹上を起こすおそれがあります。
デマンド式(応需送気式)潜水方式
送気量
- 全面マスク式は、潜水者が呼気するごとに空気が送気されるため、潜水作業の状況により、送気量は大きく変します。
- 激しい作業を行っているときは送気量は多くなり、減圧時の浮上停止など安静な状態にあるときは少なくなります。
- 潜水者の呼吸における瞬間的な最大呼気量に対応できる送気量が必要となります。
- 激しい運動・作業は、毎分40リットル程度の空気を消費するので(安静状態では8~10リットル程度)、この空気消費量を基準としたものでなければなりません。
- 例)水深20mで、激しい作業を行う場合の送気量
- 3(絶対圧)×40=120リットル(大気圧に換算)以上の送気能力が必要です。
- 高圧則第28条では、圧力調整器を使用するデマンド式潜水の場合、潜水者ごとに、その水深の圧力下で、毎分40リットル以上の送気量とするよう規定されています。
送気圧力
- 水圧、送気ホースや配管類により送気損失に圧力調整器(レギュレーター)の作動圧力を加えたものとしなければなりません。
- 作動する圧力はレギュレーターにより異なります。
- 例) 作動圧力が500kPa(0.5MPa)のレギュレーターを使用して水深20mで作業を行う場合の送気ゲージ圧力は、
- 200kPa(水深ゲージ圧)+100kPa~300kPa+500kPa=800~1000kPa以上(0.8~1.0MPa)となります。
- 高圧則第28条で規定されているのは、水圧+0.7MPaであるので、0.2+0.7MPa=0.9MPaとなり、実際には、0.9~1.0MPaが必要となります。
- なお、1.0MPa以上となりますと、高圧ガス保安法の適用を受けます。
混合ガス潜水における給気及び送気
- 混合ガスは、酸素と窒素とヘリウムを組み合わせたものが使用され、高圧ボンベ内の混合ガスを送気又は給気して行われます。
- 混合ガス潜水の実施に際しては、あらかじめ関係者に周知し、潜水作業計画に明記しておかなければなりません。
- 混合ガス潜水は、深い長時間の潜水から、呼吸ガスの消費量が多いため、通常は送気式潜水で行われますが、リブリーザー(閉鎖回路式)を使えばスクーバ式でも可能となります。
- 混合ガスの入手は、2つの方法がありますが、混合ガスの混合比の精度の関係から、ガス製造会社に製造を依頼するのが一般的ですが、潜水作業現場で製造を行うこともあります。
混合ガス製造の方法
- 製造方法には、次の3種類があります。
- 高圧混合方式
- 「ダルトンの法則(分圧)」を利用した混合方式で、高圧ボンベにあらかじめ原料ガスを充填しておき、それに目標とする混合比(分圧)に相当する圧力で成分ガスを重ねて充填する方法で、広く用いられている方法です。
- 低圧混合方式
- 比較的圧力の低い原料ガスと成分ガスを用意し、混合器を用いて製造する方法で、短時間での混合が可能なことから潜水作業現場での製造に適している。
- 混合精度が低く、混合異常や製造ロスが多いこと、混合比を変更できないなどの欠点があります。
- 質量比混合方式
- 高圧ボンベに充填したガスの質量を高精度な天秤を測定しガスの分子量と純度から濃度を正確にして精密な混合ガスを作る方法です。
- 質量計測に超精密天秤はかりを使用するので、大量生産には向いていません。
混合ガスに必要な要件
- 高圧則第15条では、混合ガスの組成に、呼吸ガス中の分圧の上限を定めています。以下の上限値を越えることのないような範囲で使用するガスの組成を決めなければなりません。
酸 素 18キロパスカル以上160キロパスカル以下
(潜水作業者が溺水しないよう必要な措置を
講じて浮上を行わせる場合にあっては、
18キロパスカル以上220キロパスカル以下)窒 素 400キロパスカル以下 ヘリウム 制限なし 炭酸ガス 0.5キロパスカル以下 - これは、高分圧のガスについて、酸素は、急性酸素中毒のおそれがあること、窒素は窒素酔いのおそれがあること、炭酸ガス(二酸化炭素)は炭酸ガス中毒をを防ぐために決められているもので、品質・規格も厳しく規定されているので、その規定に沿ってきちんと製造・管理されたものを使用しなければなりません。
- ヘリウムについては、中毒などのおそれはありません。
- 混合ガスの割合は、潜水深度等によって変わりますが、誤差をできるだけ小さくすることが安全な潜水につながり、その誤差は、プラスマイナス1%程度がもとめられます。
混合ガスの送気方法
- 送気は、混合ガスが充填された高圧ボンベから送気・給気されます。
- スクーバ式ではリブリーザー(閉鎖回路型:スクーバ潜水を参照)が潜水深度での変化に応じて呼吸ガスが調整されます。
- 送気式では、高圧ボンベを数本から30本程度まとめた集合体、ガスカードル(混合ガス潜水参照)から送気されるが、トラブルに備えて主送気と予備送気の2系統を用意しておくことが必要です。
- 現場で混合ガスを製造するときは、ガス分析器等によて確認し、ガス会社で製造されたガスカードルは、ガスコントロールパネル(ガス送気調整操作盤)などを使用して、高圧ガスを潜水深度及び潜水器に見合った圧力まで減圧します。
- 混合ガス潜水では、デマンド式潜水器が使用されますので、送気量は高圧則により潜水深度下で毎分40リットル以上を送気しなければなりません。
- 潜水者や作業内容によって呼吸量が異なるため、計画通りの潜水業務にならないこともありえるので、このような事態になることのないよう、また、安全のためにも混合ガス量は、計画のおおむね1.3~1.5倍程度用意しておくことが必要です。
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